おとぎみち

たまにマジメなおとぎブログ

観光名所に落書きをする人

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もうだいぶ昔の話になりますが、イタリア・フィレンツェにあるサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の壁に日本の修学旅行生が落書きをしたという問題が話題になったことがありました。

世界遺産にも登録されている人類の宝に落書きとはけしからん、という論調で当時はとてもバッシングされていました。

 

調べてみたら2008年の出来事でしたよ。時が経つのは早いですね。そして、今更掘り起こすこともないのでリンクは貼りません。

 

観光名所に落書きをする人は少なからずいます。
だって観光地に赴くとそこここに落書きがありますからね。
それは国も性別も多種多様です。

 

なぜ、落書きなんて程度の低いことをしてしまうんでしょうか。

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僕の考えでは、それは「歴史を知らないから」です。
恐れ多い、という感覚を持てていないからです。

 

敬う気持ちがない、というのとほぼ同意ですが、そんな高尚な気持ちはあまりしっくりきません。
相手が大きいという感覚よりも、自分が小さいという感覚の方が適切かつ身近であり、そこに生まれる畏怖が自分を思いとどまらせるのに有効だと感じます。

 

ここでいう歴史とは広義な意味であり、それが生まれた契機、生まれた時期の他にも、生まれ落ちるまでのコストや不可逆性まで含みます。

 

人を殺してはいけない理由

2003年の大ベストセラー「バカの壁

バカの壁 (新潮新書)

バカの壁 (新潮新書)

 

 


すみません、手元にないので正確ではありませんが、こんな話が載っていました。

 

僕は人を殺すなんてできない。解剖してるとわかるんですよ。人体というのは非常に複雑によくできてる。一度壊してしまうともう治しようがない。そんな人間を殺すだなんてできません。

 

 

うーん、もしかして「死の壁」の方だったかも……。

死の壁 (新潮新書)

死の壁 (新潮新書)

 

 

 いずれにしても、僕がこの本を読んだ高校生当時、なるほどと感じた覚えがあります。

 

解剖学者である養老孟司は、人間がいかに複雑に生命活動を維持しているのか、それを肌身に感じ、そして身近に感じ、経験を積んできた人です。
その人の言う「治せないから壊せない」という単純明快な論理は、高校生の僕を大いに納得させました。
当時は確か「どうして人を殺してはいけないの?」というバカげた疑問がなぜかメディアで取り沙汰され、大人は誰も正確に答えることができないなどと言われていた時代でした。

 

狂ってますね。

 

人を殺してはいけない理由なんて、自分で自分が納得する理由をこしらえろよ。
なんでも教科書に書いてあるとでも思ってるのか。世界は不完全なんだよ。

 


そして高校生から大学生になった僕は運良く、地元で開催されていた人体の不思議展に行くことができました。
そこには養老孟司が感動する人体の複雑怪奇が世界が拡がっていたのです。

 

心底思いましたよ。

 

こりゃ作れんわ、と。

 

 

落書きをしてはいけない理由も同じ

飛躍しているようですが、落書きも根本は同じです。
前述の大聖堂の例でいうと、「作れないから壊してはいけない」という単純な理由で自らを律するべきです。
そして「作れない」ということを目の当たりにするために「歴史を知る」必要があります。養老孟司が人体を解剖することによって人体を知っていったように。
歴史が凄さであり、自分の小ささを感じる触媒です。

 

15世紀に作られたもので由緒正しい建物だから落書きしてはいけませんよ、という注意喚起はとても抽象的な抑止であり、抽象的な思考はとても高度なものです。
それよりも、雑ですが「お前、これと同じように観光名所になるようなすごい建物作れるの?」って脅された方がリアルじゃないですか?

 

ま、そもそも抑止とは自分で気づかなければならないものなんですけどね。
自分で気づけないから、自己主張の方が先に立ってしまって、自分の軌跡を残したくなるんでしょう。
もう二度とくることなんてないくせに。

 

 

アニミズムシャーマニズムもトーテミズムも根付き、「もったいない」という言葉を誰もが知ってる日本に生まれ育ったのに、なんで落書きなんてことをやってのけちゃう精神が生まれるんだろ。

 

あ、もちろん観光名所に限らず落書きはしちゃダメですよ。
以前、地下鉄で壁の落書きを一生懸命消している駅員さんを目撃したとき、いたたまれない気持ちになりました。
だってこの世のすべてのものは、いろんな歴史を持っていますもんね。


あー、許せない!

かけがえのないもの (新潮文庫)

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