システム業界の努力が人に伝わらないワケ
結論から言います。
目に見えないからです。
お仕事見学
ぴちぴちの新入社員だったころ、私は青い銀行のシステム業務を請負う部署に配属されました。
そこでの辛さや無意味さは割愛するとして、こんなことがありました。
さすが青い銀行は社員食堂が完備されていました。青い銀行の正社員よりは割高ですが、私のような出向してきている人間も利用できて、昼食代の節約に繋がったことは非常に助かりました。
ある日、「本日は例外として正社員以外は食堂を利用できない」というお達しがありました。というのも、その日は正社員の家族(主に子供たち)が職場を見学する日であり、家族団らんで食堂を利用する、とのことでした。
いわば参観日の逆ですね。
お父さんお母さんの普段の仕事を見学して、家族の絆を深めよう、みたいな。
福利厚生の一貫です。
別にこのイベント自体には特に不満はありません。勝手にしておくれという感じです。
ただ疑問だったのは、子供たちはこのイベントでいったい何を学ぶんだろう、知るんだろう、ということでした。
なぜなら職場で働くお父さんお母さんは、電話、打合せ、PC作業という程度の仕事しかないからです。
バカにしているわけではありませんよ。SEの私も全く同じです。
業務の性質上、子供が実際に目撃する仕事の大半はPC作業。子供相手で、しかも身内だから、さすがの銀行もセキュリティの面には多少目をつぶるのでしょう。
パパの後ろから覗き込むPC画面には、Excelが映っていて、小難しいワードと細かい数字が並んでいたはずです。
さすがに作業内容を詳しく説明するとは思えません。伝わらないですからね。
だから銀行の仕組みや、その仕組みの中のどの部分をお父さんやお母さんが担っているか、という程度の話に終始したのではないでしょうか。そのあたりが関の山。
それは果たして「仕事を知る」という目的を達成しているのか。
そこにワクワクはあるか
例えば、お父さんの仕事が建設業で、大きな橋を作っているとしたらどうでしょう。
現場のパパは、家での優しい表情とは違い、真面目な顔で周りの人たちに指示をだしているようだ。大きな設計図とにらめっこしている。普段は見たこともない重機が、何に使うかもわからない部品を運んでいる。
数週間もすれば橋が延びている。完成すればその上を何台も車が走る。人を運ぶ。
ワクワクするような見学です。そしてパパはすごいものを作っているんだと知るでしょう。
PC作業にはそんなワクワクはありません。
つまり、見栄えがしないんです。
相手が子供だから仕方ないというわけでは決してありません。
友人知人と仕事の話になったとき、相手がシステム業界の人間でなければ全く話が伝わりません。これは優劣ではなく、これまで習得している知識系統の乖離によって起こる現象です。
どの業界の人間も多かれ少なかれこの現象に直面しますが、システム業界は特に顕著であると言っていいでしょう。
なぜならシステム構築における知識など日常生活では自然に習得する類のものではないからです。
例えば飲食店を営んでいる人の場合はどうでしょう。
店舗経営のノウハウや、アルバイトを雇う大変さ、クレーマーへの対策などの話であれば想像しやすい話題の一つでしょう。なにより、その店舗におじゃますれば、その人が厨房で汗を流す姿を直接見ることができます。
一方システム業界に身を置く人のシステム業界ならではの話となると、盲点をつかれたようなバグの話や、素晴らしいアルゴリズム、新しいプログラミング言語の優位性など、専門性と業界用語が頻出せざるを得ないものばかりです。
そしてシステム構築におけるバックボーンを知らなければ、その面白さや素晴らしさが思うように伝わらないという八方塞がりの状況に陥ります。それは結局、友人知人と話をする際にはふさわしくない話題といえるでしょう。
結果、同じ畑の人間で集まって、ああでもないこうでもないとオタク会話を繰り広げることになるのです。
それはすべて、見栄えがせず、目に見えないものの話であるからです。
「なにもしてないのにPCが壊れた」と主張する門外漢と根本が同じです。
見えるものが持つ迫力
日本は技術大国と言われてきました。
細かい技法や、緻密な計算によって様々なものを作り出してきた。それは物理的なものばかりでした。
世界中でウォークマンが聞かれたあの時代も、たとえ細かい技術はわからなくても物理機器が手の平に収まるサイズまで小型化されたことに驚くことができました。決して、その中で動き回る電気信号を評価したわけではありません。
派手なKOを決めるボクサーって爽快でかっこいいですよね。
ただし一方で、やはりテクニカルに勝ちを積み上げる静かなボクシングを繰り広げる選手は、玄人好みとして一定の評価を得ます。玄人にしかわからないその緻密さが、彼らの武器です。TVで礼賛されるような表舞台にはでてきませんが。
PCなんて今ではどの家庭にもあるのに、その動きを正確に理解している人は極僅かです。というか全てを理解している人なんているんでしょうか。それほどシステム構築の裾野は広く、同時に深淵です。私が人生を一度消化するだけでは到底理解できない複雑怪奇な世界が広がっています。
目に見えない形で。
技術力、その凄さが可視化できない以上、日本人はシステムを評価することはできないでしょう。
なぜなら、それはものづくりではありませんからね。
そういえば以前、ほこ×たてという番組で、「最強のハッカーVS最強セキュリティプログラム」をやってたけど、それはそれはひどい絵面と内容だったなぁ。
日本のエンジニアに未来はないね。
あー、ゾッとした!
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